【一橋大学名誉教授 野口悠紀雄】資源価格の世界的な高騰が収まり、輸入物価は下落しているにもかかわらず先進国で最悪の物価深刻国、物価高騰の原因はコメだけではない、抜本的な物価対策が必要

●　消費者物価上昇率、5カ月連続で3％超え 物価と賃金の“好循環”、まだ肯定するのか!?

2025年4月の日本の消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合指数（コアCPI）が前年同月比3.5％の上昇となった。3％を超える上昇率は5カ月連続で、日本銀行が目標とする2％を大きく上回る伸び率が続いている。

諸外国における物価上昇率を見ると、次の通りだ。

アメリカのCPI（消費者物価指数）は、4月は前年同月比2.3％の上昇で伸び率は3カ月連続で鈍化した。ユーロ圏のHICP（調和消費者物価指数）は、3月には前年同月比2.2％の上昇で、2月の2.3％からわずかだが低下した。

このように日本の物価上昇率はアメリカやユーロ圏より高い。先進国の中で、物価高騰問題が最も深刻なのは、日本だ。1～3月期の実質GDP成長率はマイナスになり、スタグフレーションの状況だ。

7月の参議院選挙を前に野党は、消費税率5％への引き下げや「食料品ゼロ％」などの消費税減税をかかげ、与党の一部でも減税を求める声が出ている。

だが、消費税を減税したところで物価自体が下がるわけではない。問題を解決するのではなく問題を見えにくくするだけだ。

深刻なのは、政府や日本銀行が現在の物価や経済の状況を「物価と賃金の好循環」といまだに肯定的に捉えていることだ。

春闘の高賃上げを享受できているのは、家計のごく一部であり、大半の“物価高被害者”の声が政治や政策に反映されない状況だ。

●　1～3月期GDP成長率はマイナス 日本経済はスタグフレーションに落ち込んだ

毎月勤労統計調査によると、24年度の実質賃金は前年度から0.5％減となった（確報、5人以上の事業所。持ち家の帰属家賃を除く総合指数で計算した場合）。

このため、消費者は支出を抑えている。25年1～3月期の実質GDPは前期比年率換算で0.7％減と4四半期ぶりのマイナス成長となった。 この最大の要因は、家計消費の伸び悩みだ。

このように、現在の日本では物価が上昇する一方で、経済成長が鈍化している。つまり、典型的なスタグフレーションの状況にある。

それにもかかわらず、政府も日銀も経済界も、これを「物価と賃金の好循環」だとして肯定的に捉えている。しかし、これは日本経済が抱える重大な問題なのだ。

政府は、3月から物価と実質賃金の統計の作成法を見直し、物価上昇率が低く、成長率が高くなるように改訂した。

毎月勤労統計と家計調査では、3月から、持ち家の帰属家賃を含めて実質賃金を計算することとした。これにより、3月の実質賃金と実収入は、従来方式より0.6ポイント高くなり、24年度は、対前年度比で横ばいだった。

GDP統計では、1～3月期から、個人消費の計算に「サービス産業動態統計」を反映することとした。これにより、従来方式より個人消費が多めになった。

これらは実態を覆い隠すために行われていることではないが、結果的に事態の深刻さが見えにくくなっていることは間違いない。

●　抜本的な物価対策が必要 賃上げ分の「便乗値上げ」解明を

物価高対策は喫緊の課題だ。4月24日の本コラム「消費者物価上昇『4カ月連続3％台』、物価対策でやるべきこと・やめるべきこと」で指摘したように、コメ価格の高騰は確かに重要な問題であり、備蓄米のコントロールを適切に行い、流通経路の問題にメスを入れる必要がある。

ただし、物価高騰の原因はコメだけではない。資源価格の世界的な高騰が収まり、その結果、日本の輸入物価は下落しているにもかかわらず、国内の物価が上昇していることが問題なのだ。

その原因は、賃金の上昇分が売上価格に転嫁されていることだ。その際に賃上げ分以上に価格が引き上げられている「便乗値上げ」が問題だ。
したがって、この実態を解明し、安易な便乗値上げを容認しないことが重要だ。

政府の現在の物価対策は、いまだ円安が進み、かつ世界的なインフレが進む中で、輸入物価の高騰を通じて国内のインフレ率が高まることへの対策が中心となっている。典型が、ガソリン価格や電気・ガス代を抑えるための補助だ。こうした対策を現状に即した内容に変更することも必要だ。

先進国で最悪の「物価深刻国」、大半の被害者の声は政治に反映されない日本の悲劇（ダイヤモンド・オンライン） - Yahoo!ニュース

●　消費者物価上昇率、5カ月連続で3％超え 物価と賃金の“好循環”、まだ肯定するのか!? 　2025年4月の日本の消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合指数（コアCPI）が前年同月比3.5％の上昇と

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