【岩田健太郎】ワクチン接種率を高めなければ…2021年には世界で12万人以上の人が麻疹（はしか）で命を落としています、その多くが小児でした、麻疹ウイルスが日本に持ち込まれる可能性はいつだってある

本稿を執筆している２０２４年、再び日本で麻疹（はしか）患者が複数発生しています。本連載でも２０１８年、麻疹について書いています。

ワクチン接種率を高めなければ…

当時も申し上げましたが、空気感染する麻疹は、ワクチンを接種する以外、根本的な対策はありません。免疫のついていない方は、同じ空間にいるだけでどんどん感染していきます。

よって、大切なのは接種率をいかに高めるか、ということです。小児期の定期接種制度と、接種率の向上はその大事な手段の一つです。

成人でも麻疹の免疫ができていない人はいます。６０歳代以上の人は、昔、麻疹に感染して、免疫がついている可能性が高いですが、３０～５０歳代の方は、感染もしていない、ワクチンも接種していないという人がいると考えられ、問題です。

では、どうすればよいか。まずやるべきことは、「予防接種歴の確認」です。具体的には母子手帳を見ることです。

麻疹ワクチンを２回接種していれば、免疫はついていると考えてよいです。抗体検査は不要です。１回しか接種していなければ、もう１回接種するのが望ましいです（ワクチンの在庫があれば、ですが）。この場合も抗体検査は不要です。

麻疹は、ときに重症化し、長期にわたり後遺症が出て、場合によっては人を死に至らしめます。ただし、これは大量の患者が発生した場合の話。患者数を少なく抑え込めている場合、ほとんどの人は、自然に治ります。警戒は必要ですが、パニックは禁物です。

日本は麻疹排除を宣言した国で、国内でウイルス感染がずっと流行することはありません。しかし、新型コロナがそうであったように、国際化社会においては海外の感染流行はすべて日本にも深く関連しています。

２１年には世界で１２万人以上の人が麻疹で命を落としています。その多くが小児でした。麻疹ウイルスが日本に持ち込まれる可能性はいつだってあるのです。

今後、麻疹に対する免疫を持たない方が、海外から日本に入国したり、移住したりしてくるケースが増えるかもしれません。そういう方々への予防接種の提供ルールも作る必要があります。（岩田健太郎　感染症内科医）

はしかの患者　日本でも複数確認　免疫がなければ同じ空間にいるだけでも…日本の感染症対策の課題は？ | ヨミドクター(読売新聞)

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yomidr.yomiuri.co.jp

はしか対策…日本で流行が止まらない理由
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20180530-OYTET50048/?catname=column_iwaken

日本は、２００１年には２０万人以上の麻疹患者を出し、「麻疹輸出国」の汚名を着せられました。その後、０７年に「麻しんに関する特定感染症予防指針」が出されて対策が強化されました。

麻疹ワクチンは２回接種します。１歳児の１回目接種、小学校就学前の２回目の接種です。０８年から１３年までの時限措置として、麻疹抗体保有率が低い人たちのうち、中学１年生相当と高校３年生相当の２グループに追加の接種を行い、国内からの「麻疹排除」を目指しました。

その対策は一定の成果を上げ、１５年に日本は麻疹排除状態にあると世界保健機関（ＷＨＯ）に認定されました。

しかし、翌１６年には関西国際空港をはじめ多数の地域で、１７年には山形県などで、さらに今年は沖縄県や愛知県などで麻疹のアウトブレイク（流行）が起きています。

海外からの渡航者が麻疹ウイルスを持ち込んだためです。

それにしても、０７年の「予防指針」で、「１歳児」「就学前」や、「中学１年相当」「高校３年相当」などに明確に接種年齢が決められているのに、
麻疹への抗体を十分に持っていない人が多いのを不思議だと思いませんか？

これは、「風邪をひいた」　「仕事が忙しかった」などの理由で、スケジュールの期限内に予防接種を受けられなかった人が大勢いるからです。

世の中は必ずしも設計通りには進まず、仕組みからこぼれ落ちてしまう人が出てくるのです。

ＣＤＣは麻疹の免疫がはっきりしない人に対し、「麻疹ワクチンが必要だ（ｎｅｅｄ）」とか「ワクチン接種を受けるべきだ（ｓｈｏｕｌｄ）」と強く勧めています。

麻疹対策の方法はわかっています。わかっているのに、なぜ、その対策を取れないのでしょうか。ぼくはいつも不思議に思っているのです。（岩田健太郎　感染症内科医）